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ふわふわ
自由さ、優雅さ、執着のなさ。
頭の切り替えの早さ。どれも見習いたいものばかり…
+ + +
兄弟がいなかったせいもあって、ぼくは学校から帰ると、いつもその猫といっしょに遊んだ。そしてずいぶん多くのことを、いのちあるものにとってひとしく大事なことを、猫から学んだ。幸せとは温かくて柔らかいことであり、それはどこまでいっても、変わることはないんだというようなこと--たとえば。
その猫はふわふわとした、みごとに美しい毛をもっていた。
それはずっと昔の(そして今でもやはり同じように空に浮かび続けている)あの太陽の温かな匂いを吸い込んで、きらきらとまぶしく光っていた。ほくは指先でそのいりくんだ模様の地図をたどり、できたばかりの記憶の川をさかのぼり、見わたすかぎりに広がるいのちの野原を横ぎっていった。
そんなわけで今でも、ほくはこの世界に生きているあらゆる猫たちのなかで、だれがなんといおうと、年老いたおおきな雌猫がいちばん好きなのだ。
『ふわふわ』(村上春樹著 講談社 1998)より引用しました
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